東急不動産だまし売り裁判の判決

(1)まず、消費者契約法42項に基づいて消費者契約を取り消すには、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げることが要件となっているところ、前記認定のとおり、東急リバブルの従業員で本件マンションの販売担当者であった中田は、本件売買契約の締結について勧誘をするに際し、原告に対し、本件マンションの北西角の本件建物の窓から洲崎川緑道公園が望める旨告げて眺望の良さを強調したほか、原告に配布した本件マンションの「Buon Appetito!」((伊)たっぷり召し上がれ)と題するパンフレット(甲6)、図面集(甲15)及びチラシ(甲11)に記載されている本件建物の採光や通風の良さを強調し、これらのパンフレット、図面集及びチラシにも本件マンションの眺望・採光・通風の良さが謳われていること、本件建物の眺望・採光・通風は、本件売買契約の対象物である本件建物の住環境であること等に徴すると、被告は、本件売買契約の締結について勧誘をするに際し、原告に対し、本件建物の眺望・採光・通風といった重要事項について原告の利益となる旨を告げたというべきである。

(2)ア 次に、消費者契約法42項は、事業者が当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことを要件としているところ、前記認定のとおり、被告は、本件売買契約締結当時、隣地所有者から本件マンション完成後すぐにその北側に隣接する所有地に旧建物を取り壊して3階建ての作業所兼居宅を建て替える計画であることを聞かされて知っていたのであり、しかも隣地所有者からも康和地所の井田を介してマンションの2階、3階の購入予定者にはその旨必ず伝えるよう要請されていたにもかかわらず、本件売買契約締結の際に、重要事項説明書に記載された一般的な説明はしたが、隣地所有者による旧建物の建て替え計画があり、近い将来本件マンション北側隣地に3階建て建物が建設される予定であるとか、本件マンション完成後に建物の建て替えがされる予定であるといった具体的な説明はしなかったのである。

そうすると、被告は、本件売買契約の締結について勧誘をするに際し、原告に対し、本件マンションの完成後すぐに北側隣地に3階建て建物が建築され、その結果、本件建物の洋室の採光が奪われ、その窓からの眺望・通風等も失われるといった住環境が悪化するという原告に不利益となる事実ないし不利益を生じさせるおそれがある事実を故意に告げなかったものというべきである。

イ この点につき、被告は、本件マンション北側隣接地の利用計画について、建築(建替え)計画があるものの、その具体的な着工時期、建築内容などが未確定であったため、本件マンションの購入者に対する情報としては、重要事項説明書(甲5の2)の記載内容に留めざるを得なかったが、そこに記載された「本件建物の隣接地」に本件マンション北側隣地が含まれるし、「建築物の建築、建替え」に本件マンション北側隣地の旧建物が含まれることは当然であり、東急リバブル営業は、原告に対し、本件マンション北側隣地の旧建物が将来建替えがあること、同敷地上に建築物が建造される可能性のあることを説明し、原告も了解したのであり、この東急リバブル営業の原告に対する重要事項の説明が不利益事実の告知に当たるなどと主張する。しかしながら、前記認定のとおりいまだ図面等が作成されておらず、隣地所有者による作業所兼居宅の建築の具体的な着工時期や3階建て建物の建築内容等が未確定であったとしても、前示の通り隣地所有者から本件マンション完成後すぐにその北側に隣接する所有地に旧建物を取り壊して3階建ての作業所兼居宅を建て替える計画であることを聞かされていたのである(だからこそ被告においても前記認定のとおり本件建物北側の窓ガラスを型板ガラスにしたものと思われる。)から、本件建物の購入者である原告に対し、本件マンション北側隣地の所有者が旧建物を取り壊して3階建ての建物に建て替える計画があり、建て替えがなされる予定であることを告知すべきであったというべきである(建築の具体的な着工時期や3階建て建物の建築内容等が未確定であったことから、被告において隣地所有者の建替え計画がおよそ実現される可能性がないものであるとか、建築するについても本件マンション完成後すぐにというものではないと判断したことを正当化する事情は見出せない。)。また、重要事項説明書(甲5の2)に記載された「本件建物の隣接地」に本件マンション北側隣地が含まれ、「建築物の建築、建替え」に本件マンション北側隣地の旧建物が含まれるとしても、前示のとおり、東急リバブル営業は、原告に対し、重要事項説明書に記載された一般的な説明をしたにとどまるのであって、具体的に本件マンション北側隣地の旧建物が含まれるとしても、前示のとおり、東急リバブル営業は、原告に対し、重要事項説明書に記載された一般的な説明をしたにとどまるのであって、具体的に本件マンション北側隣地の旧建物に言及して説明したとは認められず、東急リバブル営業の説明をもって、原告に対し本件マンション完成後すぐに北側隣地に3階建ての建物が建築されるという不利益事実の告知がなされたと解することはできない。

したがって、被告の上記主張は、採用することができない。

 

(3)さらに、消費者契約法42項は、事業者が当該消費者に利益となる旨を告げ、かつ、当該消費者の不利益となる事実を故意に告げなかったことにより、当該消費者が当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたことを要件としているところ、前記認定事実によれば、原告は、被告による利益の告知がなされ、かつ、被告から本件マンション完成後すぐに北側隣地に3階建て建物が建築されるといった不利益な事実を故意に告げられなかった結果、本件マンション完成後すぐにその北側隣地に3階建ての建物が建築されることはないものと誤認し、被告に対し、本件売買契約の申込みの意思表示をしたものというべきである。